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新刊 原采蘋評伝「楊花飛ぶ」

投稿者:admin|投稿日:2019年1月1日

江戸末期、旅と酒と詩に生きた女性漢詩人の鮮烈なる生涯

原采蘋評伝「楊花飛ぶ」 著者・小谷喜久江
2018年10月30日発行
九夏社・刊 定価2,400円(税別)
■販売所・宮沢書店本店

本書の主人公原采蘋(さいひん)は本のタイトルのごとく、楊(やなぎ)の花が風で飛ぶように、行方を定めず、全国を旅してまわった。漢詩人である采蘋は男装をして腰には刀を差し、男に混じって詩酒を交わし、その名声は全国に広まった。
九州の儒者の家に生まれた采蘋は、女性でありながら家の跡継ぎとして、父親から「名なくして故城に入るを許さず」と言い渡され、江戸で20年間修業し、父の遺命を達成するため生涯独身を通した。
江戸時代、女性は仮名文字を書ければ上等で、結婚して家庭に入り、跡継ぎを産むことが大事とされていた時代に、たとえ学者の家に生まれたとしても「有名になるまでは故郷に帰ってはならない」と娘に言い残す父親は果たして何人いただろうか。そう思ったのが原采蘋に興味を持った発端であった。
さらに彼女は江戸在住の合間に、房総半島を2回も回り、各地のお寺や地主・医者などの裕福な家庭に泊めてもらい、漢詩の手ほどきをしながら100首近い漢詩を残した。これらの詩には、木更津から上陸し、房総半島を回り、上総一宮あたりまでの房総の風景や、風物、人々の暮らしなどが事細かに描写されている。
私は南房総の白浜町根本で生まれ育ち、小・中・高校を地元の学校に通ったこともあり、自分が生まれる100年前に草鞋を履いて、根本や近隣のお寺に泊まり、漢詩を書いていた女性に親近感と好奇心を抱いたのである。
その後、漢学を勉強し、大学院で原采蘋の研究で博士論文を書いた。房総半島との縁も深い彼女は優れた漢詩人であり、無名のまま忘れ去られるのは忍びないと思い、論文をもとに『女性漢詩人原采蘋 詩と生涯』を笠間書院から出版した。しかし、この本は600頁、金額も1万円以上のため多くの読者を獲得するには至らなかった。本書は笠間本を読みやすく書き直したものであり、房総の方々にはぜひ手に取って、江戸末期の先祖の暮らしぶりに想いを馳せていただきたい。
(文・小谷喜久江)

小谷喜久江プロフィール
昭和22年5月11日、南房総市白浜町根本に生まれる。 白浜町立根本小学校、長尾中学校、千葉県立安房南高校を卒業。桜美林短大、法政大学で英文学を学ぶ。32歳で結婚。子育て後、マッコーリー大学大学院で修士号、日本大学大学院で博士号を修得。

*455号掲載

カテゴリー:トピックス

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